● ロンドンの有力画廊の一つSadie Coles HQに行って来ました。リチャードプリンスという作家の絵画が数点展示されていました。
題材は「看護婦」でした。小説から切り取った文字と看護婦の挿絵をインクジェットプリンタでカンヴァスに吹き付けて、その上から作家自身の手で色を重ねていくという手法です。
作品自体はほとんどピンとこなかったのですが、その横にTシャツが置いてあるのを発見しました。画廊のお姉さんに聞くと、コムデギャルソンと作家とのコラボレーションとのこと。ギャルソンでも近々売り出されるそうです。ちなみに価格は55ポンド(約1万1千円)。Tシャツだけでなくロングスリーブもありました。
● そういえば、日本のユニクロでキースへリングやバスキアの作家の作品をあしらったTシャツが売られたらしいこと(しかも1500円!)を思い出し、ロンドンでも売られているかどうか知りたくなり、その足でRegent Streetのユニクロまで足を伸ばしてみました。
しかし、残念ながらロンドンにはありませんでした。
● そういえば、原宿のナディフで奈良美智さんの作品をあしらったTシャツを販売していたのを思いだします。
● アート作品とTシャツ、実は深い関係があるのかもしれません。
しかしながら、戦略は三者三様です。
ギャルソンとユニクロは既存の店舗をベースに作家の作品を乗せていくという手法をとっていますが、ターゲットは明らかに違います。
ギャルソンは1万円を超える価格設定と現代作家を取り扱うことによって、自ずと購入対象を狭めます。そのデザインと価格ゆえ、販売枚数は多くなりませんが、逆にそのことが、購入者に希少性という特権と僅かばかりの優越感を与えます。
ユニクロは、ハイアートの文脈を利用しつつもキースヘリングやバスキアといったわかりやすい作家をあつかうことで、様々な購買層に対しアピールすることに成功しているといえそうです。
そのTシャツがアート作家のものであると理解していない層ですら、「なんかいいよね」というノリで買えてしまう。それを後押しする低価格。
● ユニクロが犯している間違いは、本当にバスキアが好きな層を意識的にしろ、無意識的にしろ無視しているところ。たった1500円でしかもユニクロで売り出されるとなると、逆に本当にキースヘリングが好きな人は買えないんじゃないかと思います。
バスキアの権利を持っている会社がユニクロにTシャツへの商品化権を売ったことは、ブランディングという立場からするとかなり危険な選択です。(私は明らかな過ちだと思います。)亡くなった作家なので現役の作家に比べればダメージは少ないものの、現在活躍中で将来有望株の作家であれば致命傷になります。
● 作品を大衆向けに商品化する際には、戦略が必要です。
ハイもローもごちゃ混ぜの日本アート界では大衆を意識することのなしに作家足りえないかもしれません。しかし消費をコントロールする意識は不可欠です。
奈良美智のキャラクターグッズは美術館に足を運んだ人だけが買えるように美術館のショップなど、ごく特定の場所でのみ扱っているそうです。
もし奈良美智がユニクロとコラボレーションし、1500円で彼のTシャツが売り出されたとき、中長期的には彼の作家生命は終わります。